今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
部屋に迎えに来た侍女の声に、鏡の中の美少女アンは頷いた。キツい印象だが、紅色の猫目が特別に可愛い。
「わかったわ。あの、ミカエル殿下に私の部屋で会えるかしら?」
「伺ってみます」
侍女がさっさと部屋を出て去って行く。
さっきまで本物のお子様として心から楽しみにしていた王太子ミカエルとの婚約書類記入の儀が、今はアンを震えさせた。
(ヤバいやばいやばい。運命の別れ道が来てる!婚約は今日だよ、今だよ、待ってくれない。今すぐやらなきゃ断罪ルート乗っちゃう!)
アンは鏡台の前から立ち上がって、部屋にパチパチと音を鳴らして静かに燃える備え付けの暖炉の前に移動した。
アンの紅の猫目に炎が映る。
ゴクリと喉が鳴った。
この温かい火は凶器にもなる。
(やるなら火傷。火傷が一番いい。顔に傷が残ったら二度と治らない)
アンが前世で考えた悪役令嬢の断罪回避ルート
「婚約破棄どころか婚約しません作戦」の肝は
自ら「傷物」になることだ。