今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
むふふふと緩む口角を引き締めることができないアンが階段を上っていると、ピンクの髪をした女生徒が一人階段の端にうずくまっていた。アンは一目見てそれが、彼女だとわかった。
彼女が、乙女ゲー正ヒロイン「ヘレナ」だ。
(出たぁあああ!!可愛いヒロイン、ヘレナちゃん!顔真っ青ってことはこれはこれはこれは!!)
顔が真っ青の彼女を前にして、大丈夫!と駆け寄るよりも前にこれからのルートがばんばん頭に湧いて来て、アンはセルフ放心状態に陥ってしまった。
(ほ け ん し つ ルート!やったぁああ!!)
口の端から唾液が漏れるのをなんとか淑女として我慢した。グッと拳を握り締めて、アンは二度咳払いをしてから階段の端にうずくまる彼女に近寄った。
「大丈夫?」
「あ……はい」