今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
アンが声をかけると、潤んだ金色の瞳がゆっくりとアンに向けられた。階段の窓から入る神々しい光に照らされた彼女は、正ヒロインに相応しく輝いている。ミカエルと同じく全てに祝福された存在だ。
(きゃ!きゃわああいいー!!)
アンは正ヒロインが大好きで、推しに次ぐ推しと言っていい。当然、願わくば推し×推しルートをガン見したい。
アンは胸をきゅんきゅん鳴かせて、鼻息が荒くなるのを耐えねばならなかった。気をつけなければこちらが不審者だ。マナー訓練で鍛えた表情筋で公爵令嬢の嗜みを披露しつつ、彼女に手を差し伸べる。
「顔色が悪いから、ほ、ほ、ほほ、保健室に案内するわ」
「お手数おかけして、私、申し訳ないです……」
「慣れないところに来て緊張するのは当然よ」
ヒロイン、ヘレナの細い手をエスコートして、アンは夢見心地である。アンの手を取って立ち上がったヘレナが、アンの顔の火傷をまじまじと見ていたことに気づかぬほど舞いあがっていた。
(私が!これから!保健室での彼らの出会いを!モブらさせて頂きます!なんて光栄な!!)