今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
アンが勢い余ってヘレナの細い手を引っ張ると、よろめいたヘレナが白衣のジェイドの胸にぽすんと支えられた。
(ぽ す ん キタ!!)
ジェイドはヘレナをきちんと支えて背に手を添えて、優しく微笑む。
「本当だ。顔色が悪いね。中にどうぞ」
「あ、ありがとうご、ざいます」
黒髪黒目の大人の憂いを持った先生の柔らかい魅力に、アンは脳天突かれてしまう。しかもヘレナがきっちり火照った顔になったのがたまらなかった。推し×推しの待ちに待った供給だ。
(きゃ!きゃ!きゃわわわわわー!!死ぬ―!!カロリー高い美味しい美味しい推し美味しい!)
アンは挨拶もせずに身体を翻して、叫び散らす前にその場を退散した。これ以上一緒にいたら、彼らの恋愛ルートの妨げになってしまう。彼らの愛をこっそりとモブに徹してコソコソ観察応援する。それがオタクの嗜みだ。
(見てしまった。見てしまった。ジェイド×ヘレナの出会いハグ!ありがとうございます!私の転生バンザイ!最高!生きてる!私って生きてるー!!)
入学式典なんてすっかり忘れていたアンは、階段の踊り場にはいつくばって、反り返りまくりのガッツポーズで生きていることに感謝した。
傷物令嬢の奇行を見かけたある令嬢は首を傾げた。