今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
魔法の力を集めて光り出したミカエルの手の平の前で、アンはぎゅっと目を瞑った。
勝負だ。
「……何だ?」
ミカエルが眉根を寄せると、手の平の光が収束した。眩い光が消えたのを感じて、アンはさっと右頬に触れる。でこぼこと醜くゆがんだ右頬はそのままだ。ぐっと拳を握りしめた。
「治ってない!勝った!」
「は?」
ミカエルが腹の底から地底を這うような低い声で、苛立ちを一文字で示す。そのたった一文字に、アンは気管を詰められた気持ちになった。碧眼の眼力痛い、息苦しい。久しぶりの威嚇の魔力圧が痛かった。
「アンお前……」
「治癒魔法は失敗ね!どうぞお帰りを!」
壁とミカエルに挟まれたアンが一歩、この包囲網を抜けようと足を動かす。すると間髪入れずにガンと壁に長い足が刺さり、アンの行く手を阻んだ。
「逃がすかよ」
(キャア人生初の足ドンかっこいーとか思えない普通に怖いー!)