今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─


アンは10歳の小さな手足でゆっくりと暖炉に近づいて、暖炉の火に刺さっている火掻き棒を手に取った。

先端が熱された鉄の塊だ。こんなものを顔に押し付けてしまえばどれほどの激痛か。


アンは火掻き棒の先端を見つめて、紅の瞳をぎょろぎょろと小さく細かく左右に揺らした。



(怖い、どうしよう。別の方法……いや違う。ここが人生の勝負所だ)



アンは震える手で持った火搔き棒の先を自分の顔の前に向けた。焼けた鉄の塊から業火の危険な熱が鼻先に伝わってくる。



「おい、お前何やってる?」



ノックもせず部屋に現れた少年は、月も霞むほど絶世の美男子だ。



(でた俺様王太子ミカエル!本当に来た!幼い可愛い!顔がすでに天才ヤバい!!)



白髪碧眼の王太子ミカエルは、アンと火掻き棒がにらめっこするのを怪訝な顔で見つめた。



(でも、ミカエルが来て、ここが乙女ゲーの世界だってよくわかった。ますます引けない)

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