今ドキの悪役令嬢は婚約破棄どころか、婚約しません!─せっかく傷物令嬢になったのに、顔が天才な俺様王太子が絶対、私を諦めない!─
推し活は許容されたらしいが、俺様の強引さにファーストキスはあっさり奪われた。指先を絡めて繋ぐミカエルにアンがボソリと恨みがましく言った。
「自分でしたくせに、照れないでよ……もっと恥ずかしくなっちゃう」
「うるさい」
長い足で、でもアンを置いて行かないように隣を歩くミカエルが、片眉を上げて照れを押し込めているのがわかる。
「仕方ないだろ、初めてなんだから」
許可なくキスしたくせに、照れて嬉しさを噛みしめるミカエルにアンの下腹がゾクッとキュンした。
(は、初めて?それはまあ嘘でしょ)
ジェイドにときめいて鳴く心臓とは違う場所だ。
(って照れ顔天才かよ……って可愛いなぁあ!)
二人が赤い顔をしてテレテレ歩いて行く背中に可愛い声が上がった。
「あのお二人ってそうなんですね……!」
「そうみたいだね」
保健室の中からヘレナとジェイドが、二人の初キス現場を黙って見ていたのだった。キスする瞬間に盛り上がったヘレナが叫びそうな口を、ジェイドが優しく塞いでいた。
「美男美女です!」
「ヘレナは……キス、興味あるかい?」
「ふぇ?!」
本日はミカエルの妨害により出歯亀できなかった。だが、キス現場に煽られた推しカプたちが盛り上がる、良いアシストをしたアンだった。