澄ましたメイドのご主人様。
「……緊張しなくていい。調理といっても,普通の卵焼きレベルのものでいいのだから」
そうなのか。
思いながら,新鮮に感じる。
わざと顔に乗せたわけでもない私の感情の機微を,感じられる人間なんて存在しないと思っていた。
「そうゆう仕事らしいのでなくともいい。好きな本やゲームなど,自由に持ち込んでくれて構わない。茉悧の存在を忘れないでくれるなら,自宅のように伸び伸びと過ごしてくれ」
大分あやふやなお仕事だ。
なにせ,目的が息子の人格矯正,ある程度は仕方ない。
けれど,私にとっては最高の職場だった。
めんどくさい人間など,どうせ世の中には溢れている。