澄ましたメイドのご主人様。
「いいの? 花蓮,無防備過ぎて俺は何でも出来ちゃうんだけど。それとも……いっそされたいくらい?」



何でも……?

? ……ああ。



「私が嫌なことは業務から全て外れますので,その権利は茉悧様にございません。私の抵抗が効かなかったとしても,その時は訴えさせて貰います」



いっそ,賠償として家を救う手っ取り早い手段でもあるな,くらいは考えてしまった。



「訴えなくったって,俺は花蓮の家が失った分以上を出せるよ?」



見透かすような瞳。

感情のない優しげな笑顔。

私の家の事情など,旦那様が知っていたように,茉悧様もまた当然のように知っている。



「それはまた……笑えない冗談ですね」

「?」

「私がここで働くことすら身売りみたいだと申し訳なさそうにして下さった旦那様が,そのようなお金の使い方を許すはずがありません。許したのだとしても,私も家族もそんなことは望みません」



だから私は,五十嵐家の家族なんだ。



「……そっか,ごめんね,いじわる言って。誘われることはあっても,断られる経験なんて無かったから,ちょっと楽しかったけど。……あれ,そもそも迫った経験もないんだっけ?」



追憶するように,私から顔をあげた茉悧様。

それはまた,大層な自信とご経験で。

なんて,わざわざ口にはしないけど。

私ははあと小さくため息を吐いた。
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