澄ましたメイドのご主人様。
「楽しそうだなぁって思って。……嬉しい?」

「……声,ですか?」



確かに,自分でもあり得ないくらいはしゃいでいたと思う。

トーンと言うよりテンポ,急かすような話はあまり得意では無かったのに。



「ううん,顔」

「動いてます?」



珍しいこともあるものだ。

自分では,特に顔の筋肉が特別な動きをしたようには思えないのに。

もし動く日があるなら,慣れない動きにひくつくことを想像していた。



「うん,ちょっと。でも多分,今までも動いてたんだろうなぁ。よく見てれば良かった,勿体ない」

「まさか」



見てれば良かったなんて,初めて言われた。

見るのは,大抵私の仕事。

そうしてどう動くか決めるのが,私の生き方。

それを,逆に見たいなんて,変な人。



「茉俐様」

「なあに?」



あなたは,私と違って



「茉俐様は,割りと大抵のことは見せてくださいますね。笑顔で,声で,言葉で。どうしてですか?」



私の表情の変化なんて,私が茉俐様だったらきっと言葉にはしない。

でも,私となにもかも違う茉俐様は,私と違う選択をする。



「……伝われば良いと思うからだよ。俺が知りたいと思ってること,嬉しいこと,全部」



それはもしかしなくても,私の話……?

知りたい,嬉しい,伝われば良い。

他人に何かを伝えること,それを望むことは,今まで私がしてこなかったこと。

必要ないと,そもそもそんな感情などなかった私には,また新たな発見。



「茉俐様……私が嬉しそうに反応をしたら,茉俐様は嬉しいのですか?」



どうして?
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