澄ましたメイドのご主人様。
「花蓮が可愛いから。大事にしてあげようって思ってる子が楽しそうにしてくれるなら,俺だって嬉しいに決まってる」

「……?」

「あは,分かってなさそうな顔。まあ,深い意味はないんだけどさ。ただそれだけのことだよ」



バイトの私を,口にするほど大事にしようと……?



「……なら,私も。今より更に意識的に,茉俐様を大事に出来るように頑張ります」



受けた恩は,気持ちは。

きっと,返すもの。

そう思うし,そうあれる人間でいたい。



「あはは,真面目だ。……花蓮,嫌じゃないの? 俺に気を使って,ただ一緒にいるって……普通に働くより,苦痛じゃない?」

「そんなことはありません。今だから言いますけど,私はどんな問題児の相手をさせられるんだろうって思ってきたんです。それを思えば,茉俐様は思ったより数倍常識的で,綺麗で,面白い方です。それに今だって,私は茉俐様と二人きりでも驚くほど落ち着いて過ごせてます」



目にも優しい見た目,何故か私を尊重しようとする姿勢。

甘やかすような声。

茉俐様特有の性質に,心は優しく凪いでいる。

緊張に張りつめる心など,最初から存在しないように。



「それは俺と居るのが好きみたいに聞こえるけど?」

「……訂正はしません」



自分で尋ねたくせに,茉俐様は目を丸くして。

照れたような頬で,私から目をそらした。

だって,そう。

1人で問題に頭を抱えるより,1日部屋に閉じ籠っているより。

目の前の茉俐様と過ごした方が有意義で,落ち着く。

ああ,やっと理解した。

さっき,茉俐様がくれた言葉。

大事にしたい,目の前の人のことが知りたい。

そしてそれが,少し位伝わってしまえばいい。
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