澄ましたメイドのご主人様。


「どれだけありふれたものを手にしても,茉俐様だけの物が,人が,世界が。きっと,ありますよ」



抱き締めた肩は,それを恐れるようでいて。

最後には落ち着いたように,動きを止めた。

その様子を見て,旦那様にも同じことをお願いしてみようかと考える。



「私が,わざわざ家のためにバイトをしようと思ったのは」



理由あってのことだった。

今すぐ路頭に迷うほどではないと感じたし,だからこそ自分で取り返せと思っていた。

だけどそこで



「母,が。働くと言い出したからなんです……母は,もうずっと専業主婦でした」



私の,せいで。

だから,あの瞬間。

ショックを受けた私もまた,少しくらい貢献しないとと思った。

少しは心も暖まるかと抱き締めたはずなのに,温もりを拾ったのは,私のほう。

茉俐様が黙って受け入れてくれているのが,何より救いになる。
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