澄ましたメイドのご主人様。
「……おかいもの,行きますか?」

「んーん。もうちょっと,このままで」



グリンと私の腕の中から回転して,首に手を回される。

まるで,私が王子様にでもなったように。

茉俐様は垂れかかり,ぶらさがっていた。

撫でて見ようかと考えた後,私よりも早くやけに良い香りのするその人が動く。

私はゆっくりと撫でられて,息を止めた。

その間,人の色気は香りや動きにも現れるのかと,見当違いの驚きも生む。

気付けば私の身体は横に倒されていて,ドアップの顔が目の前でいじわるく笑んでいた。

逸らしたいけど,逸らすには体勢がきつい。

何せ,茉俐様の左手は,私を抱き締めるように私の右手の上に置いてある。



「決めた。今日はもう少しするまで,お昼寝にしよう」



私の場合,それだと寝るのが仕事になってしまう。

寝ているだけでお給料が発生するなんて,はたして良いことなんだろうか。

それにこんな美形と,その体温に包まれたまま,どうやって眠れと言うのだろう。

と,考えていたのもつかの間。

ぎゅっとさらに引き寄せられ,隠すように包まれた後。

私の意識はあっさりと消え去った。
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