澄ましたメイドのご主人様。
「……茉俐様?」
これは?
と意図を確認しようとした私が顔をあげると,指の間にきゅっと,力ある指が差し込まれて。
私は片手でパタンと本を閉じた。
「読書は……もうやめます」
「えー?」
にやにやと楽しそうに笑まれれば,私はゆっくりと立ち上がる。
「花蓮」
それでも名前を呼ばれると,振り向かずにはいられない。
「照れてる?」
「照れてなんて」
いません。
私はそっと,唇に力をいれた。
「言ったでしょ? 俺,花蓮が何考えてるのか,表情から読めるようになったよ」
それでも
「照れてません」
「頑固」
ふっと,もう完全に柔らかさしかない笑顔。
何を言っても,何をしても,茉俐様はいつも楽しそうに笑ってしまう。
まるでお兄ちゃんにでもなったような,年上のような顔で。
「茉俐さ」
「照れてる花蓮も可愛いよ。だからほら,戻ってきて」
俺の大事なメイドさん,と最後には紡がれた。
悔しいけれど,そう言われてしまうと,無視するわけにもいかなくて。
私は一歩振り返る。
ーコンコンコン
早めの,はっきりとしたノック。
私がいる間に戸を叩く人は今日までいなくて,驚いた私は表情を変えることもなくその方を向いた。
「お客様です」