澄ましたメイドのご主人様。


「……茉俐様?」



これは?

と意図を確認しようとした私が顔をあげると,指の間にきゅっと,力ある指が差し込まれて。

私は片手でパタンと本を閉じた。



「読書は……もうやめます」

「えー?」



にやにやと楽しそうに笑まれれば,私はゆっくりと立ち上がる。



「花蓮」



それでも名前を呼ばれると,振り向かずにはいられない。



「照れてる?」

「照れてなんて」



いません。

私はそっと,唇に力をいれた。


 

「言ったでしょ? 俺,花蓮が何考えてるのか,表情から読めるようになったよ」



それでも



「照れてません」

「頑固」



ふっと,もう完全に柔らかさしかない笑顔。

何を言っても,何をしても,茉俐様はいつも楽しそうに笑ってしまう。

まるでお兄ちゃんにでもなったような,年上のような顔で。



「茉俐さ」

「照れてる花蓮も可愛いよ。だからほら,戻ってきて」



俺の大事なメイドさん,と最後には紡がれた。

悔しいけれど,そう言われてしまうと,無視するわけにもいかなくて。

私は一歩振り返る。



ーコンコンコン



早めの,はっきりとしたノック。

私がいる間に戸を叩く人は今日までいなくて,驚いた私は表情を変えることもなくその方を向いた。



「お客様です」
< 45 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop