澄ましたメイドのご主人様。
メイドと言ったら,あのメイドだろうか。

でも,それこそ真っ先に想像されるようなメイドでは無いだろう。

十分足りているはずだ。



「ただ,普段雇っているメイドとは少し違うらしい。先ず豪邸の一角の掃除,余った時間は……こちらがメインで,花蓮と同い年の一人息子の話し相手をして欲しいとの事だ」



当主がそこまで言うなら,性格にとんだ難ありの人間なのかもしれない。

我が家の危機,私の勤務先。



「気が向いたらと言っていたから,まだ有効のはずだ」



いつでもよし。



「取り敢えず……こうしてても仕方ないから,お話し伺ってくる」

「ちょっと花蓮,今から……?!」

「仕方ないでしょ。いついるかも分かんないんだから,代理人でもなんでも,話だけでも通してこなくちゃ」



納得しきらないお母さんが止めに入るけれど,それに私が首を振る。

今日は土曜日。

逃してしまえば,いつ行けばいいのか分からなくなる。

善は,急げ。

理由のない停滞は,私の流儀に反する。

それにしても,メイド……メイド?

私がメイドって,本気?

自分が特定の誰かに尽くすなんて,少し想像しがたい。

そつなくこなすことに自信はある。

けれど,話し相手ともなれば,首を捻るのもしかたない。

愛嬌など皆無,当主も息子の方も,期待に添える事は無いかもしれない。

思いながら,私は最低限の身だしなみを整え,家の外に出た。
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