澄ましたメイドのご主人様。


「どうして? 悪いようにはしないよ,もし花蓮ちゃんが俺を好きになってくれたら,更に嬉しいけど」

「そうする理由がないからです。茉俐様と居られなくなるなら,私は普通の環境でバイトを始めるだけです。それと……」



でもこれも全て,もしもの話で,現実とはなんら関係がない話。

だから



「……茉俐様が私を手放すことも,そもそも無いですよ」



いつも一緒に居てと言ってくれて,何をしようと提案してくれて。

私は少なくとも,価値ある存在としてここにいる。

その間だけは,そう言いきれるんだ。



「花蓮ちゃんは,溢すように笑うんだね」

「……私,笑っていましたか?」

「うん,幸せそうで何より。まあ,引き抜きは諦めようかな。花蓮ちゃんの心だけ貰いに,たまに通わせて貰うよ」



業務妨害,と横で頭を下げて過ぎていった住み込みの方を見て過った。

一苦労な階段を上り終えると,丁度角から人影が出てくる。
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