澄ましたメイドのご主人様。
「ふっ……すみま」



あ,違う,この人……



「茉俐様,お部屋でお待ちになるのでは?」

「遅かったから。ぶつかってごめんね? 話が響いてて,急いでたらぶつかっちゃった」

「いえ,それは別にいいんですけど……お客様です」

「知ってる」



何を聞いて急いだんだろうと私は記憶を巡らす。

取られたくないと思ってくれたんだろうか。

茉俐様は私の紹介に,簡潔に答えたまま私から目線を逸らさない。

幼馴染みとは言え客を見向きもしないなんてと口を開こうとすれば。

私は戯れに抱き締められる。

こんな保育園児みたいな行動でも,お互いそんなに小さくはない。

深い意味がなくとと,それを相手にまで何とも思うなとは,少し酷だと思う。

最後には必ず帰ってくる大切なものみたいに,嬉しそうな心音が心を揺さぶった。

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