澄ましたメイドのご主人様。


「花蓮はだめ。俺はちょっと見せてあげようかなって思っただけで,良夜のことだって忘れてたし。花蓮は俺の……」



メイドさんって,言うんじゃないんですか?

私は茉俐様の,旦那様に頼まれているなんちゃってメイドだから。

なのにどうして,そこで言葉を切ってしまうんですか。



「俺の花蓮だから。ね?」

「……はい」



俺の花蓮って,なんだろう。

他に見つからなかったようにしか見えなくて,少し可愛く映る。



「えー。まぁいいや,また会いに来るね,花蓮ちゃん。ばいばーい」

「……もう,帰られるんですか?」

「ん? いて欲しい? でも今日は2人を見に来ただけで,急がしんだよね。次はプレゼント持ってくるから,それまで俺のこと考えててね」

「……茉俐様,お断りしたいときはどうしたらいいですか?」



いきなり私なんかが正面から断るなど,いいか悪いかも分からない。

しかも相手は茉俐様の大事な幼馴染み。



「俺に頼ったらいいんだよ,花蓮」

「じゃあお願いします」

「えー? ちょっと」

「無理だって,良夜。だって花蓮は」

ー俺のことで手一杯だもんね?



「……はい」



どうして茉俐様は,一々普通のことに含みを持たせて話すんだろう。

ただ,バイトとしてだって分かってるのに。

流れからして,気持ちの方なんじゃないかって邪推してしまう。



「なんなの? 最初から俺入る余地なくない?」

「ないよ」

「じゃ,ほんともう行くから」

「んー。ほら,花蓮,戻ろ?」



……はい。
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