いつか永遠の眠りにつく日まで
「悪い、そんなに驚くとは思わなくて。で、どうした?」

「その…。」



言い淀む私を見て、マーテルはクスッと笑った。



「どうせデネブリスが攻めて来たら〜とか考えてたんだろうけど、そんなに心配するな。」

「でも…。」

「今は国民全員が同じような不安を抱えてる。上に立つお前がどっしり構えてなきゃ、国中が不安になっちまうぞ?」



そう言われてハッとした。

確かに私はまだ姫にすぎないけれど、私たちがぐらついてどうする。


(マーテルの言う通りだわ。)

おヘソの辺りで右手でグッと拳を握ると、左手でその手首を握った。



「…なんてったって、今日は建国150年っていう、せっかくの晴れの日なんだしな!」

「そうね…!」



しっかりと前を向くと、その隣でマーテルが力強く頷いた。


この城の最上階である5階に位置するバルコニーに向かうため、階段を上っていた、その時。

不意に、上から足音が聞こえて来た。


階段の踊り場に差し掛かった時、足音の主とすれ違った。

その振る舞いからして、王族か貴族。身にまとっている服からして、デネブリスの方だ。


ドキリと心臓が跳ねた。

(なんて、美しい方なんだろう。)


これ程までに美しい男性には出会ったことがない。


目は合わなかった。軽く会釈をして、お互いその場を後にした。けれど、1度跳ねてしまった心臓がなかなか鳴りやんではくれなかった。


何事もなかったように私はバルコニーへ、彼も階下へと向かって行った。
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