壊れてしまった宝物
「空?ここにいるの?」

声は虚しく響くばかりで、空の声は返ってこない。理沙だけが連れ去られたのかと思った刹那、大きな倉庫のドアがゆっくりと開いた。

「気が付きましたか」

そう言い、笑顔で入って来るのは律だった。そして、彼の腕の中には空が抱かれている。空はぐったりしており、動かない。

「空!!先生、空に何をしたの!?」

ギシッと縄が音を立てる。律を理沙は睨み付けるも、彼の表情は変わらない。

「大丈夫。ただ眠っているだけです。……今は」

「今は?」

律は空を床に置くと、理沙に近付いてきた。そして彼女の髪に触れながら、「酷いじゃないですか」と言う。

「僕とあなたは一緒に食事をした。もう家族当然の関係なのに、他の男に尻尾を振ろうとするなんて……。まあ、いい機会が訪れたと思っておきますよ」

「な、何を言ってるんですか?」

縛り付けられているせいで身動きが取れず、逃げ出せない恐怖から理沙の声が震える。そんな彼女の目の前に、一枚の紙を律は見せた。婚姻届である。律の欄は全て埋まっていた。
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