壊れてしまった宝物
その言葉を言われた時、理沙は理解したのだ。彼は自分を心から愛していない。ただ、体だけが目的だったんだと。理沙はその場から逃げ出し、彼の連絡先を全てブロックした。

それから、両親に泣く泣く相談をし、今後のことを話し合った。理沙は、小さな命を殺すという選択はできなかった。大学を辞め、実家に戻り、空を産んだのだ。

彼は最後まで認知することはなく、養育費も支払わなかった。そんな中でも子育ては過酷を極めたものの、空を産んだことを理沙が後悔したことは一度もない。

「お母さん!今日のご飯は何?」

「今日はね、ハンバーグだよ」

「やった〜!ハンバーグ大好き!」

嬉しそうに笑う空を見て、理沙も笑ってしまうのだった。



仕事をし、空を育て、律から空のことを聞き癒される。そんな穏やかな日常が過ぎていった。そんなある日のことである。

「大変!遅れちゃった!」

仕事でトラブルがあり、理沙は定時で帰ることができなかった。預かり延長をお願いしたものの、すでに時計の針は十八時を回ってしまっている。
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