だって、しょうがない
 美穂との不倫関係が、バレているとは思っていない淳は、何食わぬ顔で愛理へ声を掛けた。
 その普段通りの様子に、愛理の心は余計に傷つき、淳の顔を見るのさえも嫌になる。

「うん、イヤなことがあって、気分転換に髪の毛を切ったの」

「若く見えて、前の髪型より似合っているよ」

「そう、ありがとう」
 と抑揚のないトーンで答えて、淳の前を通りすぎ、そそくさと台所へ行きゴミ袋を持ち出す。そして、寝室へ移動した。

 寝室に入ると、2台並んだベッドが目につく。
 得体の知れない何かがベッドに染み付いているようで、たまらなく気持ち悪く思えた。
愛理は眉間にしわを寄せ、窓を開け放つ。外は秋の冷たい雨が降りしきり、部屋の中にひんやりとした空気が流れ込む。

 クローゼットを開け、広げたゴミ袋の中にハンガーが付いたまま、服を丸めては、袋の中へ放り始める。
 とにかく、荷物をまとめて、この空間から早く立ち去りたかった。
 
「何してるんだ⁉」

 背中から淳の大きな声が聞こえ、愛理は、ため息交じりに振り返り、淡々と答える。

「もう、淳とは暮らしていけないから、別のところに行こうかと思って……。心当たりあるでしょう? これからは、自分のことは自分でやってね」

 その言葉に、淳はカッとなり声を荒らげた。

「なんだよ。出張から帰って来たと思ったら、訳のわからないこと言って! イメチェンして、男でもできたのかよ!」

 そう言った淳が愛理へ詰め寄り、手首を強く掴む。

「痛っ! 手を放して……」



 
 
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