だって、しょうがない
 今回の依頼主のリクエストはアジアンスタイル。
 輸入家具の販売を手掛けている業者を登録してあるフォルダを開いた。
 表示されたアドレスから、お気に入りのショップのホームページを開くと、自宅マンションでも使っているラタンのソファーセットが画面に映る。

 途端に意識は、昨晩の事に引き戻された。
 ラタンのソファーセットで過ごした辛い時間。スマホに映し出された楽しそうなLIMEのやりとり。薄暗い部屋でそれを眺めるみじめな自分。
 胸の奥が石でも飲み込んだように重くなっていく。

──お気に入りのラタンの家具を見て、こんな嫌な気持ちになるなんて……。

 嫌な気持ちが拭えず、洗面所に入った。冷たい水で手を洗い、何気なく目の前の鏡を見ると、疲れた顔をしている自分が映っている。

 どちらかと言えば童顔だったはずなのに28歳より老けて見える。
 黒い髪を長く伸ばし、それを夜会巻きにアップしているのがいけないのだろうか。黒縁の眼鏡と相まって、キツい印象なのかもしれない。
 密かに陰でお局様と呼ばれているのを聞いたことがある。
 こんな見た目だから浮気をされてしまうのかも知れない。と、思考がネガティブのスパイラルに陥っていく。

 仕事に集中できない。誰かに話を聞いてもらいたい。
 縋るような思いで、スマホのアプリを立ち上げ、高校から付き合いのある岡田由香里の名前をタップし、メッセージを打ち込む。

『相談したい事があるんだけど、忙しいかな?』
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