だって、しょうがない
 他の女を抱いたベッドの上で、淳の手が愛理のスカートの中を弄り始める。
組み敷かれ、嫌悪感を募らせながら、このまま耐えるしかないのかと、あきらめにも似た気持ちで、愛理は唇をかみしめた。叩かれたときに切れた口の中に血の味が広がる。

 ”ピンポーン”

 ふいに、インターフォンが鳴り響き、間髪を入れずにガチャッと玄関ドアの開閉音がする。
 それに気づいた淳が振り返ると、そこには怒りに満ちた瞳の翔が立っていた。

「なあ、兄キ。夫婦でも合意が無ければ、レイプだって知ってる?」

「翔……なんで、お前が……」

「オレ? かわいい弟が兄キの家に遊びに来たんだよ。そしたらモラハラ兄キが嫁さん虐待していて、兄キの人間性を疑っているところ。……早く、愛理さんの上から退きな」

 怒気を孕んだ瞳で睨みつけた翔だが、それを淳はバカにしたように鼻で笑う。

「ハッ、夫婦のことに口を挟むな、大きなお世話だ。帰れ!」

「御託はいいからさっさと退けよっ!」

 翔が動いたと思った瞬間、大きく振りかぶった拳が淳の頬を捉えた。
 ガツッと音がして、淳が仰け反る。

「翔……てめぇ……」

 切れた口元を手で拭いながら、淳は翔を睨みつけた。
 冷めた表情でそれを受け止めた翔が口を開く。

「殴られて痛かっただろ? 力ずくで女性を抱くのは、ただの暴力なんだよ。今、兄キが殴られた以上に心へ痛みを感じているはずだ」



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