だって、しょうがない
 夜の闇に包まれた雨上がりの街の景色は、深い闇の中に幾多の宝石を散らばめたように煌めいている。
 窓ガラスに反射した室内が映り込み、そこには愛理を見つめる翔の姿があった。

「オレがもっと早く行けば、良かったのに……ごめん」

 窓の外を眺めていた愛理が翔へと振り返る。

「翔くんのせいじゃないよ。なんだか、心の中に溜まっていたことを淳にぶつけたら止まらなくなって、怒らせてしまったの。ずっと頑張ってきても夫婦なんて崩れる時は一瞬なんだね」

そう言って、寂し気に俯いた愛理は、気持ちを切り替えるために息を吸い込んだ。そして、顔を上げ話を続ける。

「明日、実家に行って来るね。淳と離婚するって報告する」

「愛理さんの実家の仕事のことも、両親に言っておくから心配ないよ。きっかけは愛理さんだったとしても仕事上の取引なんだし、書面も交わしているはずだから兄キの勝手にはさせない」

「ん、ありがとう。ごめんね」

「会社同士の契約なんだから、兄キが何を言っても、仕事さえしっかりしていれば大丈夫だよ。気にしないで! ほら、いざとなったら、オレが兄キ追い出して『不動産リフォーム樹』を乗っ取ってやる」

 と自信に満ちた瞳をむけた。
 冗談とも本気ともつかない翔の様子に愛理は眉尻を下げる。
 
「私のために仕事を変えるようなことはしないで、お願いだよ」

「大丈夫。なんにも心配いらないから」

 翔の言葉に頷いた愛理は、ホッとして疲れが出たのか、クッタリとソファーに身をあずけた。

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