だって、しょうがない
◇◇◇
「ごめーん。待った⁉」
ブルーグレーのスーツを着こなした岡本由香里が華やかな笑顔を浮かべ、向かいの席に腰を下ろした。
「忙しいのに呼び出しちゃってごめんね。由香里は、相変わらず綺麗にしてるね」
「ふふっ、ありがとう。ほら、自分自身が看板ってところもあるじゃない? 愛理は疲れた顔して、チケットあげるからお店に来てよ。癒してあげる」
岡本由香里は、都内に3店舗あるエステサロン modération (モデラシオン)の経営者。抜群のスタイルに華やかな見た目、それでいてサッパリとした性格は女性が憧れるタイプだ。
由香里は隣の椅子の上に置いたブランドのバッグを開き、modérationのチケットが入った高級和紙の封筒を愛理の前へ差し出した。そして、心配そうな瞳を向ける。
「相談って何があったの?」
「うん……」
いざ話をしようとしても言葉に詰まった。
「そういえば、美穂から連絡あって、週末にみんなで集まって食事でもって言っていたよ」
話しにくそうにしている愛理の様子に、由香里が違う話題を向ける。
だけど、大学時代に同じサークルだった朝比奈美穂からの食事の誘いに、愛理は、あまり気乗りがしない。朝比奈美穂がどうのというより、美穂と仲の良い佐久良が好きではなかったからだ。華やかな由香里や美穂には好意的なのに、地味な愛理には見下したような態度で接してくる、佐久良の事が苦手だった。でも、自宅で淳と顔を合わせるよりもマシな気がした。