だって、しょうがない
17
木曜日、ターミナル駅前は多くの人たちが行き交っていた。
その雑踏を抜けて、待ち合わせ場所の小料理屋に入った愛理は、メニューとおしぼりを受け取り、焼き物を注文したところで、スマホがメールを着信して低い振動音を立てる。
メッセージアプリを立ち上げると、淳からの謝罪のメッセージが入っていた。
悪かったとか、反省しているとか、あれから毎日届くメッセージ。
いまさら何を言われても、信頼関係が崩れてしまったのに、もう一度夫婦に戻れるとは思えない。
返信もしないで、そのまま画面を閉じ、ひとつため息をつく。
「ごめん、待った? 私、いつも遅刻しちゃうね。ホント、ごめん」
明るい声を掛けられて顔を上げると、相変わらず綺麗にしている由香里が向かいの席に座った。
「ううん、私も今来たところ。焼き物だけ時間がかかるから先に注文しちゃった」
ふたりでメニューを覗き込む。結局、お店のオススメの「夢一献」という日本酒とそれに合う料理を何品か注文した。
もっきりスタイルで、枡の中にグラスが入っている。海の色のような青いグラスは、由香里の前に置かれ、満月を思わせるような梔子色のグラスは愛理の前に置かれた。そこにメインのお酒、夢一献が注がれる。
「わー、すごーい」「キレイ」「香りがいい」と褒めたたえていると、気を良くした店員さんが表面張力の限界を越して、グラスから枡にあふれるほどお酒を注いでくれた。
「福岡のお酒で、夢つくしというお米を使っているんですよ」と店員さんが教えてくれる。
愛理はそっと、満月のような色合いのグラスを持ち上げ、口をつける。柔らかな味わいで、ふくよかな香りが鼻に抜けていく。
福岡というワードで、あの夜を過ごしたきっかけは、由香里が愛理のスマホに入れたマッチングアプリだった。と思い出してしまい胸の奥が切なく痛む。
そんな愛理の様子に気付かない由香里が明るい笑顔を向けた。
「美味しい! 調子に乗って飲んだら、痛い目に合いそうね」
愛理は、胸のうちを隠して「気を付けなくちゃ」と調子を合わせた。
その雑踏を抜けて、待ち合わせ場所の小料理屋に入った愛理は、メニューとおしぼりを受け取り、焼き物を注文したところで、スマホがメールを着信して低い振動音を立てる。
メッセージアプリを立ち上げると、淳からの謝罪のメッセージが入っていた。
悪かったとか、反省しているとか、あれから毎日届くメッセージ。
いまさら何を言われても、信頼関係が崩れてしまったのに、もう一度夫婦に戻れるとは思えない。
返信もしないで、そのまま画面を閉じ、ひとつため息をつく。
「ごめん、待った? 私、いつも遅刻しちゃうね。ホント、ごめん」
明るい声を掛けられて顔を上げると、相変わらず綺麗にしている由香里が向かいの席に座った。
「ううん、私も今来たところ。焼き物だけ時間がかかるから先に注文しちゃった」
ふたりでメニューを覗き込む。結局、お店のオススメの「夢一献」という日本酒とそれに合う料理を何品か注文した。
もっきりスタイルで、枡の中にグラスが入っている。海の色のような青いグラスは、由香里の前に置かれ、満月を思わせるような梔子色のグラスは愛理の前に置かれた。そこにメインのお酒、夢一献が注がれる。
「わー、すごーい」「キレイ」「香りがいい」と褒めたたえていると、気を良くした店員さんが表面張力の限界を越して、グラスから枡にあふれるほどお酒を注いでくれた。
「福岡のお酒で、夢つくしというお米を使っているんですよ」と店員さんが教えてくれる。
愛理はそっと、満月のような色合いのグラスを持ち上げ、口をつける。柔らかな味わいで、ふくよかな香りが鼻に抜けていく。
福岡というワードで、あの夜を過ごしたきっかけは、由香里が愛理のスマホに入れたマッチングアプリだった。と思い出してしまい胸の奥が切なく痛む。
そんな愛理の様子に気付かない由香里が明るい笑顔を向けた。
「美味しい! 調子に乗って飲んだら、痛い目に合いそうね」
愛理は、胸のうちを隠して「気を付けなくちゃ」と調子を合わせた。