だって、しょうがない
「わかった。予定空けておく」

 と言ったタイミングで注文していた料理が運ばれてきて、カルパッチョやアクアパッツァ、バーニャカウダがテーブルの上に並ぶ。ロゼスパークリングワインの口が切られ、グラスに注がれる。淡いピンクの液体にシュワシュワと炭酸がはじけ、口をつけると、ほんのりとベリーの味わいがある。
だいぶ前のクリスマスに淳と飲んだ事を思い出した愛理の胸がツキンと痛んだ。そして、細く息を吐き、ゆっくりと話しだす。

「あのね……淳がね、浮気しているみたいなんだ」

「えっ? なんで、そう思ったの⁉」

「淳のLIMEにね。今度いつ会えるって、ハート付きのメッセージが送られて来たのを偶然見ちゃった……」

 愛理は言葉を吐きだし、涙をこらえるように天井を見上げた。店の天井から下がったシーリングファンが、クルクルと何もない空間をかき混ぜているのが目に映る。
 息を吸い込み気持ちを整えてから、スマホに残した証拠の写真を由香里に見せた。
 それを見た由香里は、眉間を寄せて険しい表情になる。

「そっか……。で、愛理はどうするつもりなの?」

「もう少し、浮気の証拠を集めてから考えようかなって……。でも、離婚はなぁ。淳の会社に実家がお世話になっているから、こっちから離婚とか言い出しにくいんだよね。自分一人ならどうにかなるけど、親の分まで養えきれないし……」

「親に話したの? 相談しないうちに一人で抱え込んでも良くないと思うんだけど」

 由香里の言葉は、至極当然な事だった。一般的に見て子供の不幸を願う親は居ないはず。けれど、女に生まれたというだけで、幼い頃から”役立たず”と言われて育った愛理には、親にとって都合の悪い話をすれば、何を言われるか想像がついた。

 離婚をして実家の工務店が契約を切られれば、再び役立たずのレッテルを貼られる。そんな事を考えると、親に離婚の相談をしても自ずと結果は見えている気がした。

「うん、そのうちにね……親にも言うよ」

 そう言って、黙り込んだ愛理の心の内を察したように由香里は寂しげに微笑した。
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