だって、しょうがない
警察への説明が終わり、翔の部屋へふたりで戻ってきた。
「お疲れさま、お腹すいたね」
「なにか、デリを頼もうか?」

 警察には、淳のDVを受けた愛理が、このマンションに避難していた。それをストーカー的に追いかけて来た淳が再び手を上げようとしたところを通報されたと経緯を説明した。ストーカー規制法も以前より強化され、待ち伏せ行為も処罰の対象となるらしい、警察もいろいろ相談に乗ってくれるそうで、心強い。

「お蕎麦の乾麺が買ってあるから、それで良ければすぐに食べれるよ。翔くんは、まだ無理をしないで、座っていて、めまいとか大丈夫?」

 パタパタと動き回る愛理を翔が愛おし気に目を細め見つめていた。

「オレは、大丈夫。愛理さんも大変だったのに、食事まで悪いよ」

「平気だよ。ひとり分もふたり分も手間は変わらないんだから」

 鶏肉や油揚げ、長ネギを刻み。出汁とめんつゆで作った簡単なお汁で煮る。別の鍋で乾麺を湯がき、どんぶりに盛り付ければ……。
 ここまで来て、ハタと愛理の動きが止まる。

「どうしよう。どんぶりが、ひとつしかない!」

「あははっ、食器が揃ってなくて、ごめん。オレ、鍋から直接もらうよ」

 クスクスと笑いながら、夕飯のお蕎麦をいただいた。
 怖い出来事があったばかりなのに、今、笑えているのは、ふたりで居るからだ。
 
でも、愛理は不安に駆られていた。自分の存在が翔にとって、マイナスに作用しているような気がしてならない。

「翔くん、私、今日は他のところに泊まるから、翔くんはこの部屋で休んで、お願い。それと今まで甘えていたけど、お部屋を出ようと思っているの」




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