だって、しょうがない
「愛理さん、そうやって、なにもかも自分ひとりで背負うのは悪い癖だよ。助け合う方が、道が開けるはずだ」

「でも……。淳と翔くんは家族なんだよ。それなのにスタンガンで気絶させるなんて、私を(かば)わなければ、こんなことにならなかった。今日だって……本当に怖くて……私が夫婦の問題に翔くんを巻き込んだから、こんなことになって、ごめんね」

 愛理は、感情が高ぶり涙が溢れそうになる。それをこらえるように唇を引きむすんだ。

「愛理さんのせいだけじゃない。ウチの家族の問題でもあるんだ。兄キは、オレが両親といろいろ話し合っていることに気付いているんだと思う。だから、愛理さんとの復縁をアピールして、揉めごとなど何も無かったことにしたいんだ」

「でも、私、淳とはやり直す気がないのに……」

 愛理の言葉に頷いて、翔は言いにくそうに口を開く。

「兄キは、愛理さんのことを……無理やりにでも抱いて、子供を作ろうと考えているんだと思う」

 淳の行動を振り返ると、翔の推測は間違っているとは思えない。何かあると無理矢理押さえ込んで、体を重ねようとする。愛理はあのときの感触を思い出し、ゾワリと背筋が寒くなる。
 
「なんにしても、都合のいい嫁、家政婦としての私が必要なんだよね。だって、淳の不倫相手は家事をするタイプじゃないし、私と別れたからと言って、淳と結婚するとは思えない。もしかしたら……不倫相手にも捨てられたのかも」

 御曹司と結婚する予定の美穂が、いつまでも淳と付き合っているメリットはない。友人の夫との不倫は結婚前のスリルある遊びだったのだろう。
 



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