だって、しょうがない
「みんな、早いね。私が遅れちゃったのかな。ごめんね」
 御曹司の婚約者らしく、淡いピンクの華やかなワンピース姿の美穂が、愛理の向かいの席に腰を下ろした。

「私たちも、今来たばかりだよ」

 美穂に会ったら、どんな気持ちになるのか、愛理はあれこれ、想像していた。
取り乱すのだろうか、怒り出すのだろうか……。
けれど、その想像はどれも外れていて、実際には、心が冷えて何も感じていないみたいに冷静だった。
 
 真っ白なテーブルクロスが敷かれ、その上には落ち着いたシルバーのランチョンマット。お豆腐を使ったオードブルが並び、赤のスパーリングワインが運ばれてきた。それを切子加工のグラスに注ぐ。

「美穂、婚約おめでとう。乾杯」
 
「「乾杯」」
 合わせたグラスが、キンッと高い音を立てた。

「はい、私たち3人から婚約祝い」

「わぁ、ありがとう。開けてもいい?」
 
 美穂は、その場でプレゼントを開封して、目を輝かせる。
 
「素敵なワイングラス。こういうの欲しかったんだ。ありがとう。家に帰ったら早速、使わせてもらうね」

 と、花のような笑顔を浮かべた。
 
「もう新居に引っ越したの? 住み心地はどう?」

 由香里の問いかけに、美穂は誇らしげに口角を上げる。

「コンシェルジュが常駐しているから快適よ。ホテルに住んでいるのと変わらないわ」

 それを聞いた佐久良が興味津々の瞳を向ける。

「あー、やっぱり、御曹司との結婚いいなぁ。ねえ、向こうの親とか親戚とかうるさいの?」




< 148 / 221 >

この作品をシェア

pagetop