だって、しょうがない
「俺は離婚するつもりはない!」

 淳の言葉に愛理はため息をつく。心を尽くして言葉をかけようとも、話しは平行線のまま、何一つ解決しなかったのだ。
 
 そして、とうとう車が停まっているコインパーキングまでたどりついてしまう。
 淳が車に近づくと、カチリとロックが外れる音が聞こえた。

 このまま車に乗せられ、家へ帰るかと思うと愛理は足を踏み出すことが出来ない。腕を掴まれたまま引きずられるように車の横まで連れて来られた。
 愛理は淳の顔を見上げ、視線を合わせる。

「私……。家には帰らない」

「愛理、いい加減にしろよ!」

 淳に掴まれている手首が、ギチッと痛み、車のドアが開けられた。
 家へ帰るかと思うと、愛理の脳裏にあの時のタブレットに映し出された映像がよみがえる。大切にしていた空間を汚され、今までの大切な日々が消えた苦い記憶。
絶対に淳を受け入れるなんて出来ない。
 最後の抵抗とばかりに声を張り上げた。

「いい加減にするのは淳の方でしょ。あの家へ帰って、私にあのベッドで寝ろというの? 私、知っているって言ったよね。不倫をしたのは私じゃなくて、淳、アナタなんだから! 私が不倫した証拠もないくせに、妄想で都合よく話をすり替えないでよ!」

「愛理!」

 イラつきを隠せずに淳の表情が険しくなる。そして、空いている方の右手が高く上がった。

 ”殴られる”  愛理は、ギュッと目をつぶり、とっさに身構えた。



 
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