だって、しょうがない
「やめろっ!」

 その声でハッとして、顔を上げた愛理の瞳に、後ろから羽交い絞めにされてた淳が映る。
翔が駆けつけ淳を抑えたのだ。
 この寒さの中、翔の額には汗が浮き、肩で息をしている。自分を探し、駆けずり回ってくれたんだと愛理は思った。

「翔、てめぇ。放せよ」

「自分の思い通りにならないからって、直ぐに暴力を振るうなんて最低だ。今度、暴力振るったらマジで警察呼ぶからな! この前のも診断書取ってあるから、冗談抜きに警察へ突き出すぞ!」

 翔の一言で、淳はあきらめたように振り上げていた手を下ろした。
 それでも気持ちが収まらないのか、淳は翔に食って掛かる。

「お前こそ、人のモノに手を出して、どういうつもりなんだ」

「どういうつもり? オレは愛理さんに手を出していないし、愛理さんは兄キの《《モノ》》じゃないんだよ。それに取られたくないなら、なんで大切にしなかったんだ」

「大切に思っていたさ。これからだって、大切にするつもりだ」

「今さら何言っているんだか。兄キが愛理さんを大切にしているのを、最近見たことがないんだけど。それに、大切な人に手を上げるとか考えられない。前に警告したよな。大切にしないと捨てられるって」

「くっ、」
淳は反論できず、悔しげに唇を噛んだ。

「だいたい冷静になって考えろよ。何かにつけて、力づくで自分の思い通りにしようとしているけど、暴力沙汰で加害者として逮捕されたら、社会的にアウトだ。兄キは会社の看板も背負っているんだから、自分だけじゃなく周りの人の生活まで影響が出るってわかっているのか!? 経営を担う者としての自覚を持てよ」

 その言葉に、淳は肩を落としうつむいた。翔は細く息を吐き出し、愛理へと顔を向ける

「愛理さん、遅くなって、ごめん」
 






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