だって、しょうがない
「愛理……」

 淳は、力なくつぶやき、うつむいた。
 それを見て、翔は哀れむように眉尻を下げる。

「今日は、愛理さんを実家に連れて行くから。兄キも思うことはあるだろうけど、落ち着いて話が出来る状況じゃないよな。日曜日に改めて話し合おう」

 まだ、涙が止まらず泣きじゃくる愛理の様子を見るように、翔は少し屈んで優しい瞳で語りかける。

「愛理さんも日曜日で、いいよね?」

 愛理は涙を拭いながら、うなずき「ありがとう」と小さく返した。

「じゃ、日曜日に。他に人が居た方が冷静に話しが出来るだろうから、実家でいいよな。兄キも今までしてきたことを振り返って、考えをまとめて置いて」

「……ああ」

 と、短い返事をした淳は、思いつめたようにうつむいたまま、地面の一点を見つめていた。

「愛理さん、歩ける?」

「もう、落ち着いたから大丈夫」

 そう言って、愛理は翔へ笑顔を向けた。けれど、心配をかけまいと無理に笑っているせいか、唇が震えている。 

 それに気づいた翔は、困ったように微笑んだ。

 今すぐにでも愛理に「自分の前では無理に笑わなくていいよ」と抱きよせ、優しくなぐさめたい。けれど、淳の前で愛理に触れれば、またあらぬ疑いを招き、火に油を注ぎかねない。
 
「愛理さん、行こうか」

 と、抱きしめる代わりに、そっと背中に手を添える。
 薄暗いコインパーキングに淳を残し、ふたりは歩きだした。

「翔!」

 追いかけるように翔を呼び止める声がした。
 



 

 
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