だって、しょうがない
「事件にしたくないの、お願い。それに淳も治療しないと……」

 いくら自分を守るためとはいえ、警察沙汰にすれば、不動産リフォーム樹に影響が出るだろう。
 今はちょっとしたことでも情報が拡散される恐れがある。次期社長とその弟との三角関係などと、揶揄されて、面白おかしく騒がれるかもしれない。
 そんなことになれば、信用を失い会社が傾く恐れがある。

 それに淳も負傷している。下手をすれば、過剰防衛として翔まで罪に問われる可能性だって捨てきれない。
 愛理は自分だけが助かって、他の人たちを泥船に乗せるような選択は出来なかった。

 正義感の強い翔は納得がいかないというように、なにかを言いかけた。けれど、言葉を飲み込み、大きく息を吐き出す。

「わかった。愛理さんの決めたことに従うよ」

 そう言って翔は、地面へ横になったまま折れた手を抱える淳へ声をかける。

「聞いていただろ。病院へ連れて行ってやる。愛理さんに感謝しろよ。車の鍵は?」

「ポケット……に入っている」
 弱々しい声で答え、淳はのろのろと体を起こし、ポケットから鍵を取り出した。そして、片膝をついて車へ寄りかかると、ポツリとつぶやく。

「お前に愛理を取られると思ったら……。カッとなって……悪かった」

淳から差し出された鍵が、翔の手へ渡る。

「謝るぐらいなら、感情に流されるなよ。今回のことは謝って、許されるようなことじゃないんだ」

「ああ……そうだな……」




 
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