だって、しょうがない
 人生の先輩であるお義母さんでさえ、立ち止まっては振り返り、自分と同じような悩みを抱えている。愛理はそう思うと、普段は口に出来ないことを素直に打ち明けられるような気がした。
 
「私も、同じようなことを思っていました。私と結婚したから淳があんな風に変わってしまったような気がして、ふたりの生活を良くしようと頑張ってきたはずなのに、何がいけなかったのか、どこで間違えてしまったのか、ずっと考えてしまって、でも、答えなんて出なくて……」

「自分の子供といえども、自分とは考え方も行動も違うのよね。親が子供のためを思って言った言葉も、子供が受け取らなければ届かなくて……切ないわ。夫婦も同じように、相手のためを思って、いろいろと行動しても、結局は、受け取る側が気持ちを傾けてくれなければ、ダメだと思うの。淳は周りの思いを受け取ろうとしなかったんだわ」
 
 愛理は、母親の言葉にうなずいた。

「兄キは、恵まれていたんだ。自分の欲しい物を苦労をしなくても手に入れてしまって、苦労していない分だけ、大事にしなかった。欲しくて渇望して、やっと手に入れたものなら、それだけ、大事にするだろう? 社会的地位や人も羨む家庭がどんなに有難いのか、その価値がわからなかった。失くしそうになって、はじめて価値に気づいて暴走して、警察に突き出されても文句が言えないことをしたんだ」

 それを聞いて母親は視線を落とし、ギュッと手を握りながら後悔を口にした。

「わたしが甘やかしたのがいけないんだわ。せめて、淳が大学出て直ぐに入社させないで、翔みたいに外の会社で社会経験を積ませれば良かった」

「いまさらだろ。それよりも、これから本人がどうするかだよ」

「そうね……」
 と、言って遠くを見つめた母親に翔が問いかける。

「父さんは?」

「急遽、用事が出来て九州の実家へ行ってる。明日の夜には帰ってくるはずよ」

「じゃあ、今日の話しはメールしておくから」


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