だって、しょうがない
食事を終えた愛理には和室の客間が用意され、その客間には、布団が敷かれている。気がつけば、夜もだいぶ深い時間になっていた。
布団に入ると、どっと疲れが押し寄せ、 ケガをした左腕が心臓の脈動に合わせて、ズキンズキンと痛む。
病院で縫合の際の麻酔が切れたのだ。食後に飲んだ痛み止めや抗生剤が、早く効いてくれるのを願うしかできなかった。
痛みのせいで、寝ているのか起きているのかわからない朦朧とした意識の中、柔らかい手が額に触れたような気がして、愛理は、薄っすら目を開ける。すると小さな声が聞こえた。
「ごめんなさい、起こしちゃったかしら? 熱が出てきたみたいなの。辛いわよね。冷たいけど我慢してね」
頭が持ち上げられ、首の後ろがひんやりする。氷枕をあててくれたのだ。
「……ありがとうございます」
「いいのよ。遠慮しないでね。具合の悪いときぐらいは、いっぱい我がままを言って、甘えてちょうだい。その方が、きっと早く治るわ」
優しい声の心地よさにホッとして、目を閉じた。
翔の声も聞こえてくる。
「母さん、愛理さんの具合どう?」
「熱が出ているみたいなの。いま、氷枕をあてたから、少し様子見ましょう」
愛理は、淳に刺された傷の痛みを感じながら、自分の行いが、正しいのか間違っているのか、ぼんやりと考えた。
今回のことを傷害事件として、警察に通報するのが、正解だったのかもしれない。でも、この優しい人たちの生活を壊してしまうのが、良い選択とは思えなかった。
もしも、警察に通報していたら、こうして穏やかな時間を過ごせずに、みんなが明日の暮らしに不安を抱えていただろう。そんなことになったら後悔していた気がした。
布団に入ると、どっと疲れが押し寄せ、 ケガをした左腕が心臓の脈動に合わせて、ズキンズキンと痛む。
病院で縫合の際の麻酔が切れたのだ。食後に飲んだ痛み止めや抗生剤が、早く効いてくれるのを願うしかできなかった。
痛みのせいで、寝ているのか起きているのかわからない朦朧とした意識の中、柔らかい手が額に触れたような気がして、愛理は、薄っすら目を開ける。すると小さな声が聞こえた。
「ごめんなさい、起こしちゃったかしら? 熱が出てきたみたいなの。辛いわよね。冷たいけど我慢してね」
頭が持ち上げられ、首の後ろがひんやりする。氷枕をあててくれたのだ。
「……ありがとうございます」
「いいのよ。遠慮しないでね。具合の悪いときぐらいは、いっぱい我がままを言って、甘えてちょうだい。その方が、きっと早く治るわ」
優しい声の心地よさにホッとして、目を閉じた。
翔の声も聞こえてくる。
「母さん、愛理さんの具合どう?」
「熱が出ているみたいなの。いま、氷枕をあてたから、少し様子見ましょう」
愛理は、淳に刺された傷の痛みを感じながら、自分の行いが、正しいのか間違っているのか、ぼんやりと考えた。
今回のことを傷害事件として、警察に通報するのが、正解だったのかもしれない。でも、この優しい人たちの生活を壊してしまうのが、良い選択とは思えなかった。
もしも、警察に通報していたら、こうして穏やかな時間を過ごせずに、みんなが明日の暮らしに不安を抱えていただろう。そんなことになったら後悔していた気がした。