だって、しょうがない
 障子越しに柔らかい光が差し、部屋の中が仄かに明るくなり始めた。
 モゾリと動いた布団から顔を覗かせた愛理は、壁掛け時計を見上げた。針は午前6時半を指している。
 昨日、病院から上司へ仕事を休ませてもらう連絡を入れておいたのに、習慣でいつもの時間通りに目が覚めてしまったのだ。
 あまり早く起きては、迷惑になりそうな気がして、もう一度寝ようかと体を反転させた。氷枕に耳をつけると、水の中を空気が通る音がポコポコと伝わる。
かいがいしく看病してくれたおかげで、熱も下がっている。氷枕をあててくれたときの優しい手を思い出し、ホワリと温かい気持ちになった。

 目を閉じて、うつらうつらしていると、壁の向こうから、コトコトと生活音が聞こえてくる。

昨日の晩、遅くまで看病をしてくれていたのに、こんな早い時間に起きているなんて……もしかしたら、眠れなかったのかも知れない。
 そう思った愛理は、布団から起き上がり、台所へ向かった。

「お義母さん、おはようございます」

 調理台に向かって、朝食の支度をしている背中に声をかける。

「おはよう、具合はどう? もっと、ゆっくり寝ていて良かったのよ」

 と振り返ったお義母さんの瞳が赤くなっているのを見て愛理は心を痛めた。
 
「いつもこの時間に起きているので、目が覚めてしまったんです。昨夜はありがとうございました。おかげさまで熱もすっかり下がったんですよ」

「安心したわ。あの、もし、良ければ愛理さんに折り入って話しがあるの。聞いてもらえるかしら?」


 
 


 
 
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