だって、しょうがない
翔の視線が、小さな機械に注がれる。
「前に愛理さんが話してくれた見守りカメラってコレ?」
「……私、カメラを仕掛けた話しをした?」
「飛行機を降りて、買い物した後のタイミングで、兄キが不倫している話しのときに聞いたけど……」
と翔は意外そうな顔をしている。
あの日、福岡空港から羽田空港へ降り立った後、あまりにも色々なことが起こり、おおすじの記憶はある愛理だったが、細部まで覚えていなかったのだ。
「はぁー。話していましたか」
「はい、話していました」
愛理の言葉を反芻するように翔がおどけて返した。
それに反応して、フッと愛理の口元が緩み、緊張が解ける。
「翔くんに引かれるかと、覚悟を決めて言ったのに……」
「それぐらいのことじゃ、引いたりしないよ」
「だって、普通に考えて、部屋に隠しカメラとか、自分がやられていたら引くでしょう」
「愛理さんが普段そんなことをしない人だって知っているし、そうまでしなければならない理由を作ったのは、兄キだよ」
そう、家庭をかえりみず、友人の美穂と不倫をして、ましてや妻の留守中に自宅に招くようなマネをしたのは淳だった。
「実は、もう一台設置してあるんだけど、高いところに付けたから、外してもらいたいの」
「いいよ。どこ?」
と、寝室のカーテンBOXの上に設置した見守りカメラを翔に外してもらう。その広い背中を見つめ、愛理の気持ちは複雑に揺れていた。
なんだかんだと、翔に頼り切ってしまっている。今だって、翔に軽蔑されるかもしれないと思い、見守りカメラのことを言い出すのをためらってしまったのは、失うことを恐れているからだ。
離婚する夫の弟。
それを思うと、ほのかに色づき始めた気持ちを、胸の奥底へ仕舞い込みたくなる。
「前に愛理さんが話してくれた見守りカメラってコレ?」
「……私、カメラを仕掛けた話しをした?」
「飛行機を降りて、買い物した後のタイミングで、兄キが不倫している話しのときに聞いたけど……」
と翔は意外そうな顔をしている。
あの日、福岡空港から羽田空港へ降り立った後、あまりにも色々なことが起こり、おおすじの記憶はある愛理だったが、細部まで覚えていなかったのだ。
「はぁー。話していましたか」
「はい、話していました」
愛理の言葉を反芻するように翔がおどけて返した。
それに反応して、フッと愛理の口元が緩み、緊張が解ける。
「翔くんに引かれるかと、覚悟を決めて言ったのに……」
「それぐらいのことじゃ、引いたりしないよ」
「だって、普通に考えて、部屋に隠しカメラとか、自分がやられていたら引くでしょう」
「愛理さんが普段そんなことをしない人だって知っているし、そうまでしなければならない理由を作ったのは、兄キだよ」
そう、家庭をかえりみず、友人の美穂と不倫をして、ましてや妻の留守中に自宅に招くようなマネをしたのは淳だった。
「実は、もう一台設置してあるんだけど、高いところに付けたから、外してもらいたいの」
「いいよ。どこ?」
と、寝室のカーテンBOXの上に設置した見守りカメラを翔に外してもらう。その広い背中を見つめ、愛理の気持ちは複雑に揺れていた。
なんだかんだと、翔に頼り切ってしまっている。今だって、翔に軽蔑されるかもしれないと思い、見守りカメラのことを言い出すのをためらってしまったのは、失うことを恐れているからだ。
離婚する夫の弟。
それを思うと、ほのかに色づき始めた気持ちを、胸の奥底へ仕舞い込みたくなる。