だって、しょうがない
◇ ◇ ◇

「4倍速でいいか?」

「うん」

 翔の部屋で、ふたりは言葉少なに映像を追いかけた。淳と美穂の情事にうんざりした頃、パソコンの画面に映し出されている映像は、やっと朝を迎え、服を着た淳と美穂がリビングのソファーに座り、コーヒーを飲み始めた様子だ。

「あっ! 何か話しを始めた。倍速を元に戻すよ」

 内容は聞き取れるスピードに調整される。
 映像の中の淳と美穂の会話が聞こえてきた。

『は? もう、会わないとか。冗談だろ⁉』

『本気よ。私、結婚が決まったの。だ・か・ら・遊びはお終い。お互い楽しんだんだから、良い思い出にしましょう。それに、愛理にも悪いし』

 そう言って、美穂はふくみ笑いを浮かべる。そんな美穂を見て淳は、呆れ顔で言う。

『悪いと思っていたら、オレを誘うなよ』

『その誘いに乗ったアナタも同罪でしょう?』

『据え膳食わぬは男の恥だろ? 本当は、悪いとか思っていないクセに、何言っているんだ?』

『あら、ちょっとは悪いと思ったわよ。でも、抑えられない好奇心ってあるじゃない? それに、人のモノって良く見えたりするでしょう?』

『悪い女だな』

 淳が吐き出した言葉を聞いて、美穂は艶のある唇の端を上げ、鮮やかに微笑んだ。



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