だって、しょうがない
『まあ、お気楽なSEXが(たの)しみたいなら、今度から佐久良を誘えばいいのよ。愉しませてくれるわよ』

『冗談キツイな。あの女じゃ、すぐに浮気がばれて、THE END だ。両親のお気に入りの愛理と離婚にでもなったら、会社のイメージダウンにつながると評価されて、会社を継ぐのが難しくなるんだ』

『じゃあ、浮気はしないでお利口さんにした方がいいわね。これからは愛理と仲良くして愉しめば?』

と美穂は含みを持たせたような笑顔を淳へと向ける。

『お前に言われたくないな』

 顔をゆがませる淳へ、美穂はどこ吹く風で朗らかに手を振りながら言う。

『もう帰るから私の連絡先消してね。楽しかったわ。では、愛理とお幸せに!』

 綺麗にネイルさせた指先をひらひらさせながら美穂は、画面からフェードアウトする。
 淳は暫くスマホを操作して、ソファーから立ち上がり、廊下の方へと消えて行った。

 プツンと画面が暗くなる。
 すると、膝の上で手をギュッと握った愛理は、堰を切ったように話し出した。

「私、淳と美穂……ふたりから蔑まれていたんだね。長い間、ぜんぜん気が付かなったなんて、バカみたい」
 
 瞳がゆらゆらと揺れ、大粒の涙がポタポタと落ちる。
 翔はやりきれない憤りを抑え、愛理を胸に抱き寄せた。

「愛理さん、あのふたりの感覚がおかしいんだ。あんな奴らのために傷つくことないよ。普通じゃない」



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