だって、しょうがない
「翔くん……私……淳も美穂も許せない。なんで……ひどいよ……」

「許さなくていい。愛理さんはもっと怒っていいんだ」

 小さな肩を震わせ涙を流しながら、言葉を吐き出す愛理の姿に、翔は心を軋ませた。 
 
「私……もう……やだ」

 淳と美穂に裏切られていただけではなく、あざ笑われていたショックで、言葉にならない悔しさが、涙となって愛理からこぼれ落ちていく。
 
「やっぱり、兄キを警察に突き出してやろう」

 翔の声が聞こえ、愛理はハッとして顔を上げる。

「それは、ダメだよ。警察に届けても刑事罰があるとは限らないんだよ。過剰防衛で逆に翔くんも訴えられるかもしれないし。それに、会社に与えるダメージを考えたら、届けを出して損をすることの方が多いんだから」

 警察に届け、逮捕されたからと言って、終わりではない。
 逮捕の後、道筋としては起訴をされ、裁判にかけられるはずだが、傷害罪で起訴をされるのは、全体の30.2%。実に3件に1件しか裁判に持ち込まれないのだ。

「くそっ、もっと蹴飛ばして、バキバキにしてやれば良かった」

 真顔でそんなことを言う翔に愛理は驚き目を見開く。

「気持ちは嬉しいけど、翔くんが警察に連れて行かれるようなことになって欲しくないの」

「……愛理さん」

「今朝、お義母さんが、弁護士さんも交えて場を設けてくれるって言っていたの。そのとき、できれば、翔くんも一緒に居てくれる?」

「もちろんだよ」




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