だって、しょうがない
◇◇◇
「ただいま」

「お帰り。あら?  愛理さんは?」

 実家の玄関ドアを開けた、翔の気配に気づいた母親が台所から顔を出す。

「疲れていたみたいだったから、オレのマンションに泊まってもらった」

前日からの寝不足のうえ、見守りカメラに残されていた映像の衝撃で、疲弊した愛理はそのまま翔のマンションに泊まることにしたのだ。

「愛理さんの体調は、大丈夫なの?」

「心配だけど、本人が平気だって言うし、オレが泊まり込むわけにはいかないだろ?」

「そうよ。今はまだ、愛理さんは淳のお嫁さんなのよ。間違いは起こさないでね」

 わかり切ったことをあえて言うのは、釘を刺しているということだ。
 翔は、母親の言葉を苛立たしく思った。

「……だから、こうして帰って来てるだろ?」

「わかっているならいいのよ」

 と母親は眉尻を下げ、不安気に翔を見つめた。
 淳の不倫を知った日から、愛理を自分のマンションに置き、翔は実家に身を寄せている。
 その事情を両親には説明してある翔だったが、誰の目から見ても愛理に対する思慕はあきらかだった。

「父さんは?」

「リビングにいるわ」

「少し話があるんだ」

 翔はリビングへ足を踏み入れた。

 

 
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