だって、しょうがない
「腹減った」
「今日は、ビーフシチューだよ」
愛理は、淳が脱いだ背広の上着を拾い上げ、皺にならないようハンガーへ通し壁に掛けた。世話を焼いてもらうのが当然という淳の態度に愛理は、苛立ちが抑えきれない。
「背広、皺になったら困るの淳だからね」
いつもは険悪になるのが嫌で何も言わなかったのに、つい口をついてしまった。
淳は、うるさいなとばかりに大げさなため息を吐く。
──自分が悪いのに注意すると不貞腐れる。面倒くさい人。
相手にしたくないから、キッチンに入って、出来上がったビーフシチューを器によそう。
サラダやカットしたフランスパンなどもトレーに乗せて、ダイニングテーブルに運ぶと既に腰を下ろしていた淳は、スマホを何やら操作している。
家に帰ってくれば、自動で食事が出てくるとでも思っているような態度。自分の存在意義は《《そこ》》なのかと、愛理の気持ちは重くなる。
トレーに乗せて来たものをテーブルの上に並べて、「いただきます」とわざとらしく声をだした。
それなのに淳はスマホに視線を向けたまま無言で食べ始めている。
── 私と会話をするのが億劫なら、夫婦として一緒にいる意味がないよね。
さっきまで美味しそうに見えていたビーフシチューの味が、途端に感じられなくなった。