だって、しょうがない
 その映像とは、SDカードからコピーしたUSBメモリに収められている、淳と美穂が情事を終えた後に、愛理を蔑んだ会話を映したものだった。

「いい? 映すよ」
 翔がフォルダからファイルをクリックすると、パソコンの画面には、朝を迎え、服を着た淳と美穂がリビングのソファーに座り、コーヒーを飲み始めた様子が映し出された。

『は? もう、会わないとか。冗談だろ⁉』

『本気よ。私、結婚が決まったの。だ・か・ら・遊びはお終い。お互い楽しんだんだから、良い思い出にしましょう。それに、愛理にも悪いし』

『悪いと思っていたら、オレを誘うなよ』

『その誘いに乗ったアナタも同罪でしょう?』

『据え膳食わぬは男の恥だろ? 本当は、悪いとか思っていないクセに、何言っているんだ?』

『あら、ちょっとは悪いと思ったわよ。でも、抑えられない好奇心ってあるじゃない? それに、人のモノって良く見えたりするでしょう?』

『悪い女だな』

 結婚が決まった美穂から、淳に別れ話を持ち掛けていたり、美穂から誘ったことがわかる会話をしている。
婚約をしているのを知らないで関係を持ったなら、相手のウソを信じても仕方なかったとの事情が認められ、故意又は過失が存在しなかったということで、性交渉があっても不法行為は成立しない。
この映像は美穂のウソをあばく証拠になる。淳に責任をなすりつけようとしても思い通りにはさせない。

 USBメモリをパソコンから取り外し、愛理は淳へと差し出す。
「良かったら使って」

「……ごめん、ありがとう。弁護士に証拠として提出させてもらうよ。助かった」

「いいの。私には、もう、いらないものだから」
 
先程、隠し撮りをされたことに腹を立て暴言を吐き、怒りをあらわにしていた淳は、戸惑いながら愛理からそれを受け取った。皮肉にも、その隠し撮り映像が自身を救うアイテムとなったのだ。


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