だって、しょうがない
 不動産屋さんの前で、待っていた翔は、珍しく落ち込んだ様子で、仕事の電話が良くない内容なのかと愛理は心配になった。

「翔くん、お待たせ」

「あっ、愛理さん、不動産屋さんに付き添えなくてごめんね」

 と、普段と変わらない笑顔を見せられて、愛理は翔のために何ができるのか考えてしまう。

──会社のトラブルだと、なにも手伝えることはない。だからといって、知らんぷりもしたくない。いままで、たくさん助けてくれた翔に何か返せるものがあればいいのに……。

「電話、お仕事のことだったんでしょう? もし、会社に行かないといけないなら遠慮しないでね」

 気の利いたことも言えずに自己嫌悪に陥りながら、愛理は翔の様子を窺った。それに気づいた翔は愛理に気を使わせてしまったと、バツが悪そうに髪をかき上げる。

「あー、今日は、のんびりできるんだけど……。福岡の現場でトラブルがあって、明日、午前の便に乗らないといけないんだ」

 愛理とせっかく、楽しく過ごしていたのに水を差すような仕事の電話。それも福岡の現場のトラブルで数日、向こうに居なければならない。

「えっ⁉ 明日、福岡へ行くの? 羽田から?」

 明日、羽田に行くという話しに、愛理は、食い気味みに反応してしまう。
 そんな愛理に翔は、目をパチクリしている。

「そうだよ」

「私もちょうど、明日、お客様のお出迎えで羽田に行くの。翔くんのこと、空港でお見送りしてもいい?」

ささやかなお返しだけれど、少しでも翔の力になれたらと、愛理は考えたのだ。

「見送りしてくれるなんてうれしいよ」

 出張で暫く愛理と離れなければならないと、落ち込んでいた翔だったが、愛理が見送りをしたいと言ってくれて、気分が浮上する。

──我ながら、だいぶ重症だな。




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