だって、しょうがない
──ヨシ、そろそろ大丈夫かな。

 深夜、隣のベッドで眠る淳は、呼吸音と共に胸が一定の間隔で上下している。
 枕元に忍び寄り、淳のスマホを手にした。
 そして、眠っている淳の人差し指をそっと摘まみ、スマホの画面に押し当てる。指紋認証を使って、スマホのロックが外れると、愛理はホーッと息を吐き出した。

──よく眠っている。お風呂上りにビールを勧めたのは正解だった。

 まるで、TVのサスペンスドラマで見たような自分の行動に愛理の心臓はドクドクと早く動き、手に汗がジットリと浮かんだ。
手の汗をパジャマに擦り付けるように拭い、次の操作に取りかかる。

 GPSアプリのインストールだ。
 淳のスマホはtuyokuという機種。Androidのアプリの中から、Watch quietlyというアプリを選びインストールした。このアプリは最初の1週間は無料。その後1ヶ月につき750円の使用料金が発生するが、アプリのアイコンなどは画面に表示されず、その上、他のスマホやパソコンからも操作でき、音声も拾えるスグレモノ。
 もともとは、スマホの紛失防止で開発されたという追跡アプリなのだ。

 次に、スマホを機内モードにして、 LIMEアプリを立ち上げる。機内モードにしたのは、万が一、操作の途中でメッセージが送られていた場合に既読にならないための対策だ。

 ここで、LIMEアプリについているロック機能を使い、ロックを掛けられていれば、暗証番号がわからず、この先に進めない可能性が大きい。"ロックされていませんように"っと、祈るような気持ちでタップした。

 スッと画面が進んだ。幸いにもアプリにロックはされていなかった。ホッと胸をなで下ろす。
 スマホのタップで先に進む。まずは、非表示になっている人は居ないかチェックだ。
 淳は、指紋認証が掛かったスマホを覗き見られるなんて考えた事もなかったのだろう。非表示の友だちもナシだった。
 そして、友だち登録の中から怪しい名前を探し始める。
 LIMEは、友だち申請で受け取り後に相手の名前を自由に変えられるから、女性名を男性名に変更しているかもしれない。

 暗い部屋の中、スマホの画面を食い入る様に操作して、ホラーさながらの自分の滑稽な姿に乾いた笑いが起こる。

 その時、モゾッと淳が動く。
 床の上に敷かれたラグマットの上に身を低く伏せ、スマホの光が漏れないように体の下にそれを差し込み隠した。
 ピンチとも言える状況に、今にも心臓が壊れそうなぐらい早く脈動を繰り返している。
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