だって、しょうがない
 暗い部屋の中で、ベッドのスプリングがギシギシと軋む音が響く。
 淳は久しぶりに愛理の深い所まで味わい、気持ちが高揚していた。

「イヤ……」
 時々、ベッドに縫い留めた愛理の声がする。それは、拒絶の言葉のようだが、淳には喘ぎ声としか聞こえていなかった。
 なぜなら、夫婦の間で拒絶などないと淳は思い込んでいるためだ。
 腰の動きと共に早くなった鼓動、そして、ハァハァと肩で息をしながら、淳は自分を追い上げる。
 
 長い付き合いの中で、愛理が自分の世話を焼いているのを当たり前のように思っていた。そして、女としての魅力を感じなくなっていたのも事実だ。

 慣れた存在は居心地はいいが、毎日同じ料理を食べていたら飽きてしまうように新鮮味に欠けるSEXは、味気無い。

──もっと、愛理が積極的なら、楽しむ事も出来るのだろうが、真面目なのも考え物だ。

 真面目で、優しい良い妻。それが周りの愛理への評価。
 それで、満足しなければいけないのだが、どこか物足りない。
 付き合い始めたばかりの胸のときめきを追い求めているわけじゃない。けれど、時折、胸が弾むような出来事が、欲しくなってしまう。

──愛理の魅力に気付いた男に攫われる……か。
 確かに言い過ぎてしまったかもしれないが、翔があんな反応をするとは、思わなかった。
 まさか、愛理のことを本当に狙っているとか無いよな……。

この夜の出来事は、 Make loveとは程遠いSex。
それは、マウンティングともマーキングともいえる行為だった。
 
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