だって、しょうがない
 幸い、淳は寝返りを打っただけで、再び一定の呼吸音を刻み出した。
愛理はゆっくりと頭を上げ、用心深く、その様子を窺う。
淳は、体を横を向きにして背中を見せ、寝息を立ている。念の為、口元に手をかざし、反応がないのを確認してから、スマホの操作に戻った。

 スクロールをしていくと”浅見"と苗字だけの名前を見つける。

 仕事の取引先や職人さんという可能性もあるが、仕事関係は大抵スマホの電話帳の登録のはず。「浅見」は、女性の名前の「亜沙美」とか「愛紗美」のもじりなのかも……。と思った。
 LIMEで名前ならともかく、苗字だけはあまり見かけない。違和感を感じて念のため、開けてみる事にした。

 タップすると、さっき見た『今度、いつ会える♡』の文字が目に飛び込んでくる。
 『お店決めたら連絡するよ』と淳の返信を見て、ヒュッと息を飲み、はぁはぁと、浅い呼吸を繰り返す。

 この他にも『この前は楽しかったね♡』『また行こうよ』『早く会いたい』などの履歴があった。
 自分で不倫の証拠を探して、それを見つけたくせに、実際に見つけてしまうと、胸が詰まって息をするのも苦しく感じた。

 ギュッと目を瞑り、泣かないように自分自身を叱咤する。

──せっかく、ここまで、やったんだから自分のスマホで撮影して、証拠を残しておかないと離婚の時に不利になる。

 自分のスマホで、淳の履歴を無我夢中で撮影し、それが終わると、機内モードを解除して、彼の枕元へスマホを戻した。

 すべてを終えて自分のベッドに潜り込み、布団を深くかぶる。気が付けば、浅い息を繰り返し、スマホを持つ手がカタカタと細かく震えていた。

 それが、慣れない事をした緊張なのか、淳に対する怒りなのか、裏切られたショックなのか、愛理自身にもわからなかった。


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