だって、しょうがない
「明るく見えるようにイメージチェンジをしたいので、バッサリと切ってください。カラーリングも。あ、でも一応社会人なので、会社に怒られないぐらいで、お願いします」

 ガツンとイメチェンしますと宣言したかったのに、最後の方は日和ってしまう。そんな自分が恥ずかしくて愛理は肩をすぼめ小さくなった。
 
「うーん。それじゃ、髪色は、ショコラブラウンにして、いきなりバッサリは大変だろうから。肩にギリギリ届く長さで、レイヤーをちょっと入れる感じでどうかな? 簡単にまとめられる長さだからTPOに、対応しやすいと思うんだ」

 肩のあたりに手を当てたり、後ろで結んだ時のイメージに合うようにまとめたりと北川の手が動く。節のある大きな男の人の手が、繊細な動きをしているのを不思議な気持ちで、愛理は鏡越しに眺めていた。
 
 「はい、それでお願いします」の言葉を合図に施術が始まった。椅子が傾き、顔に布が掛けられ、髪が洗われる。
 ほど良い温度のお湯と力加減で、マッサージをするように頭皮を刺激されると、体の力がゆるゆると抜けて来る。お湯の流れる音と店内に流れるボサノバのBGMが心地良い。
 ずっと、張りつめていた気持ちが緩んでいくよう。

『半個室のスペースで、ゆったりと癒されてみませんか?』という、看板の謳い文句に釣られて、入ってしまったけれど、ゆったりと癒されている。

「お疲れですね」
と耳の側で北川の声がした。

 
 
 
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